田中一明さん連載第2回:ラーメンシーンの「いま」を生真面目に読み解く

公開日: ラーメン, 特別企画

TV「お願い!ランキング」などの出演でも話題の『ラーメン官僚』こと田中一明さんの連載第2回目です。東大の頭脳とラーメン年間700食杯数を誇る田中一明さんが、食べ手視点からラーメン業界を考察します。
第2回は「ラーメンシーンの『いま』を生真面目に読み解く」です。

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ラーメンシーンの「いま」を生真面目に読み解く

田中一明

2015年に入り、はや2ヶ月強が経とうとしている今日。今年もまた、数多くの新店が登場し、中には既に人気店としてのポジションを確立しつつある店も、ちらほら見受けられる。
私のように、幸運にもラーメンの情報を発信する役割を担う者は、毎年、一定数の新店が出揃った3月ごろから「今年流行するラーメンの傾向」の分析に取り掛かり、近い将来ブレイクが予想されそうなジャンルを、やや強引にカテゴライズし、気の利いたフレーズで発表する段取りに入るのが常。
だが、率直に申し上げて、年を追うごとに、その作業が困難になってきているとの印象がぬぐえない。

おそらく今年は、
1.提供店舗数が順調に上向き傾向にある「貝を用いたラーメン(いわゆる「シェルラー」)」
2.スープ、麺などの主要スペックに変化が生まれ始めた「味噌ラーメン」
3.ミートソースと絡めたり、日本蕎麦ライクな麺を用いたりと、多様化が進んでいる「まぜそば」
あたりが、ブレイクしそうなジャンルとして採り上げられるものと考えられる。

2013年の新店「中華そば 四つ葉」
蛤(はまぐり)を使った「蛤そば」が人気。
※掲載写真は昨年の「濃口醤油」。本年1月からは淡口醤油で提供中。
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2011年オープン「牛骨らぁ麺 マタドール」
牛骨を贅沢に使用し清湯系に仕上げた特徴的なスープが人気。
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それぞれ確かに、ブレイクするのではないかと判断するに足りる根拠がある。かくいう私も様々な媒体で「今年は貝が来ますよ」などと言及したりもしている(笑)
が、いずれも、必ずしもラーメンシーンの全体像をとらえ切ったものではないように感じるのだ。

作り手の創造性の総体を捉えているか

あたかも、世界の一部の、そのまた一部分における事象を殊更にデフォルメして発信しているに過ぎず、率直に申し上げて、もどかしさを感じている。見方を変えれば、作り手の創造性の総体は、もはや、数個のシンボリックなフレーズによって表現できるものではなく、総体は総体としてありのままに捉えなければならない段階にまで到達したということなのかも知れない。

それでは、そのような捉え方をした場合、現在のラーメンシーンは、どのようなものと考えるのが適切だろうか。言い換えれば、2015年におけるラーメン店の店主の創造性の総体とは、具体的にはいかなるものなのだろうか。

「カタチを止めることなく刻々と変化し、店主の顔ぶれが変われば、ラーメン版流行大賞用語すら様変わりする」

これに尽きるのではないだろうか。

ラーメンにおけるブームの構造とは

振り返ってみれば、つい10年ほど前までは、食べ手の側はもちろん、作り手の側にも「ラーメンとは、このようなものだよね」というフレームワークが存在した。

例えば、濃厚豚骨魚介系スープが一世を風靡した2000年代の初頭。その頃までは、少なくとも、このジャンルが流行るという目測がある程度立った段階で、燎原の火のごとく、同じタイプのメニューが巷間を席巻したものだ。
これは、「濃厚豚骨魚介というのは、こんなものだよね」といった暗黙の了解事項が作り手の間で共有されていたことを意味する。
「濃厚豚骨魚介」を作れば一定の集客を見込むことができる。
この事実は、やがて、集客力を付けるためには「濃厚豚骨魚介」を出せばいいと、主客が逆転した形へと変容する。

この段階まで到達すれば、「流行しているラーメンは、濃厚豚骨魚介系だ」と大手を振って断定することができるし、そのように断じることに何らの違和感はない。

ところが、現在はそうではない。

昨年は「鴨」がブレイクしたと言われ、今年は「貝」がブレイクすると言われるが、果たして、上述したような2000年代初頭の濃厚豚骨魚介ブームと構造は同じか。異なると言わざるを得ない。

2000年代初頭の頃のように、作り出す味と集客力とが深く関連付けられていないような気がするのだ。

人気店の「斬新さ」を「ブーム」に置き換えていないだろうか

作り手自身が美味いと胸を張れるラーメンを提供し、提供する味が客の嗜好と合致するか。
合致した味がSNSなどで評判となり、不特定多数の食べ手の耳目に触れ、結果的にブレイクしているように見える。

そう、一言で申し上げれば、評判の良い人気店が提供するラーメンに斬新な要素があれば、その要素をブレイクするものとして都合良く置き換えているに過ぎない。

かつての時代のように、集客力を得るためには「鴨ラーメン」や「貝ラーメン」を出せばいい。そういう空気感が作り手の間で醸成されるまでには至っていないのだ。
つまり、誤解を恐れずに結論を申し上げれば、「鴨や貝が来る!」というフレーズでブレイクを語ることは、厳密に言えば、若干のミスリードではないかと考える。

多数の秀才よりも、ずば抜けた才覚を有するひとりの天才が重んじられる時代。

21世紀に入って以降10年余りの間に、処々の事象全般にわたって、我々がオマージュを抱く対象は、集団に対する安心感から、特定個人の個性に対する畏敬の念へと変遷してきた。

思えば、ラーメンシーンにも、そのような変化の波が押し寄せて来ているだけなのかも知れない。

■掲載した店舗概要
店名:中華そば 四つ葉
住所:埼玉県比企郡川島町伊草298-20
営業時間:水~日 11:00~15:00、17:00~21:00
月 11:00~15:00
定休日:月曜の夜の部、火曜日

店名:牛骨らぁ麺マタドール 本店
住所:東京都足立区千住東2-4-17 中村ビル1F
営業時間:火~土 11:30~14:30、18:00~21:00(なくなり次第終了)
日・祝祭日 11:30~16:00(なくなり次第終了)※1日100杯目安
定休日:月曜日(「まぜそば専門 闘牛脂」として営業)

※店鋪情報は掲載時点のものです。

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