スペシャルインタビュー:東京・山王パティスリー「ル・ガリュウM」オーナー、進化する『モダン&アンティーク』。

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2005年の創業以来約9年、東京・大田区山王の閑静な住宅街で愛され続けているパティスリー「ル・ガリュウM」。

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オーナーでシェフの丸山正勝さんは、小川軒やシェ・リュイで修行後、渡仏し本場フランスで修行、その後ミシュラン三ツ星系列の東京・新宿の「トロワグロ」パティスリー部門でシェフを勤めた。
その豊富な経験から生まれる個性豊かなお菓子作りに、「ル・ガリュウM」は地元住民のみならず、遠方からのファンも絶えない人気パティスリーとして長く愛されている。
店主の明るい笑顔とユーモア溢れる配慮に、店内は終始和やかな雰囲気。
女性従業員からは「ちょいワルって感じですね(笑)」と親しまれている。
現在47歳、オーナーシェフ丸山さんに話しをうかがった。

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小学校1年の時に卵焼きを作って家族に振る舞ったことが原点

一見、タフなスポーツマンといった風貌で、実際にモトクロスやサーフィンなども趣味で行うという丸山さん。食の世界に入るきっかけとなったことはなんだろうか。

「小学校1年の時、初めてフライパンを持って卵焼きを作ったんです。
学校から帰ってきて、おやつを食べたければ自分で作らなければならない環境でしたので、母から卵焼きの作り方を教えてもらって作りました。
それを家族に振る舞ってみたのですが、自分が作ったものを食べてくれて「おいしい」と言ってもらったことがすごく嬉しかったですね。
その心地よさがきっかけなんじゃないですかね。単純なことだけど、すごく大切なことだと思います。」

「ル・ガリュウM」は2階にカフェスペースを設け、製造から販売までを一貫して行う本格的なパティスリー。JR大森駅から徒歩10分、大森界隈でも閑静な住宅街として知られる山王に立地する。
スイーツの人気店がひしめく表参道や人気住宅街成城などではなく、敢えてこの地を選んだ。

「大森は住んだこともなければ来たこともなかったんですが、都内で探しているなかで、道がすごくよかったんです。
歩道も車道もゆったりと広々した場所は都内にあまりありません。
この場所は、渋滞することもありませんし、通りがかりで一目で気に入りました。
本来ならば、もっと人通りがあった方がよいのでしょうが、雰囲気を優先して選びました。」

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駅前の喧騒から離れ、広々とした通りに面した路面店舗。コンクリートうちっぱなしのモダンな外観と、店内のアンティーク調で統一された調度品が絶妙なバランス。2階のカフェスペースに向かって吹き抜けの造りになっており、開放的でハイセンスな空間となっている。

「衝動的で負けん気の強い人間なのでね、厳しい職場だからやめておけと言われると逆に行く気になりました。」

最初に修行したのは、洋食で有名な老舗「小川軒」。始めはパティシエではなく料理人としてスタートした。
「専門学校で就職先を検討しているときに、小川軒は厳しい環境で有名だから、やめといた方がいいと先生に言われたんです。
衝動的な人間なのでね、負けん気が強いので、そう言われると上等だという気分で行ってしまいました。
案の定、とても厳しかったです。肉体的にも精神的にも想像を絶する厳しさでしたね。
でも、仕事として、社会人として、食に携わる人間として、どういう人間でなきゃいけないのかということを感じさせてくれたお店でした。いろんな影響を受けています。今でも鮮明なくらい。すごく感謝しています。」

小川軒での修行中、パティスリー部門で働いている先輩から店を手伝うよう声がかかる。

「パティスリー部門の先輩が可愛がってくれていて、その店舗へ手伝いにいくことになったんです。
当時、15分もない休憩時間に、昼ご飯もそこそこにダッシュで向かって、たった15分ですが手伝いにいきました。
今思えば、『お菓子屋も面白いぞ』ということを僕に言いたくて手伝わせてくれたのかもしれないですね。」

パティスリーを手伝っていくうちに、ある大きな気付きに出会う。それが料理人からパティシエに転身するきっかけとなる。

「お菓子は、バター・砂糖・卵・小麦粉の4つの要素だけでいろんなものが作れてしまう。
配合のバランスを変えるだけでパウンドケーキにも、クッキー、カスタードクリーム、シュークリームにもなるんです。
バランスを変えるだけなんですよ。しっとりもするし、カリッともなるし、なめらかになったりするんです。
それは驚きでしたね。そこから面白いなと思ってお菓子の道に行きたいと心を決めました。」

小川軒を辞める時、「どうせなら大成しろよ」と言われた一言は今でも覚えている。

しかし、勤務中の小川軒では、入社した新人のほとんどが、その厳しさから辞めていくなか、丸山さんは残り続けていた。
また、新人の中でも料理の一部を任せられる任務(ポジション)を最初にもらっていた。
「本当に申し訳なかったです。料理で修行に入ったのに、パティシエに転身したいっていうのもですが、新人の中でも最初にポジションをもらっていたので、期待してもらっていたところもあったのかなと。
辞める日の最後に「どうせなら大成しろよ」と言われた一言は今でも覚えているね。」

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フランス料理は砂糖を使わないから最後に必ずデザートを食べる。日本のスイーツ文化とは大きく違う。

そこから東京・広尾「シェ・リュイ」で約3年修行。その後フランスに渡る。時代は湾岸戦争の真っ只中、現在のようにインターネットも無く情報も少ないなか、登山用ザック一つでフランス、シャルル・ド・ゴール空港に単身降り立った。

「何も分からないでフランスに行きました。
とりあえずの日本人は紹介してもらいましたが、電話の掛け方も分かりませんでしたし、電車の乗り方も分からない。人の群れについていって、貨幣の見分けもつかないので、一番大きいお金を出してお釣りの数で認識するってくらい何も分からない状態で。」

日本でフランス語を身につける暇がなく、言葉が通じないことを覚悟してフランスへ。
飛び込みで何軒か回っていくなか、現地で知り合った日本人に修行先を紹介してもらう。
「言葉は通じませんので、イマジネーションで伝えていくしかない。
渡仏して3ヶ月程は円形脱毛が発症しました。まだ若い分、精神的にも未熟でしたしね。
フランスでの生活が慣れた頃には、海外生活が向いてるとよく言われるくらいになりました。
正直、ずっと居たかったです。ナイーブすぎる人だと難しかったりしますが。
僕もナイーブなんですけどね。(笑)」

ユーモアを交え、自然と場を和ませる話し方に、丸山さんが様々な修業先で庇護されてきたことが伺える。
「1軒で長く続けることで得られることも多いですが、いろんな店で修行することで得られることも多いと思います。同じ物でもお店によって配合は全然違うので、いろんなルセット(配合)と出会うことで勉強になりました。」

渡仏から2年あまり、日本に帰国。
「日本が大好きなんで、フランスでお店を出すつもりはなく、2〜3年くらいで帰らないとなというぼんやりした目標はありました。」

渡仏し、本場フランスで修行している間に感じた日本との大きな違いはどんなことだろうか。

「フランスでは、スイーツは完全に生活に密着しているものです。
食事が終わった後にデセール(デザート)を食べないと死んじゃうというくらい。
デセールまで食べてひとつのストーリーなので、嗜好品ではないんです。なければならない。今日は要らないというのはないんです。
なぜなら、フランス料理は砂糖を使いません。厳密に言うとパンなどに糖分は入っているのですが、調味料には使われていません。だから、料理の最後にデセールがないと満足感がないんです。最後のデセールでバランスを取っているんですね。
一方、日本は流行りの部分が大きいですね。流行の後に文化として根付くものとそうでないものが出てくる。消費については全く異なるものですね。」

店内には常時、フランスの伝統菓子が数多く並ぶ。

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修業時代と全く違う「自己表現」という自分との戦いが始まった。

30歳になる前にお店を持ちたいという思いがあったが、現実的にはお金も経営的なところも力不足を感じていたところ、先輩からシェフをやらないかと誘われる。
フランス名門レストランであり40年以上ミシュラン三ツ星を連続獲得している「トロワグロ」の系列店、東京・新宿の小田急百貨店内「トロワグロ」。
パンとケーキと総菜を販売しているお店のパティスリー部門の長であるシェフ。

当時29歳、初めて自分のお菓子を作る機会に恵まれた。

「それまでは、自分のお菓子を作っていたわけではなく、勤務するお店のルセット(配分)を使って作っていただけであって、違った種類の自分との戦いが始まったわけです。
新商品の開発をしていかなければならないのですが、なかなか自己表現って形にしたり味にしたりするのがすごく難しくて、テクニカルな部分の特殊技術が必要になってくる。」

そこで、10年従事し、商品開発から売上管理までを行う統括となる。
生産管理以外にも専門的知識を要する損益計算なども職務となり、電車が無くなる時間まで働く日々。当時のことを「運良く」と振り返る。

「簿記の参考書を見ても言葉が分からないので、辞書で調べながらですよ。僕、学生の頃勉強してなかったんでね(笑)。
また、企業の会社員という形で入社していましたので、一般的な社会常識も勉強することが出来ました。スーツの着こなしを先輩に教えてもらうところからですね。
毎日、帰るのが電車が無くなる時間でしたし、商品開発と並行して売上管理の勉強だったので大変でしたが、独立のことを考えると、あの時に損益計算などやらせて頂いたことは、運が良かったですね。」

コンセプトというのは目標であって、当初と同じではいられない。自分の中から生まれてくるものがコンセプト。

10年勤めたトロワグロを退職。満を持して自身の店「ル・ガリュウM」をオープンさせた。
開店当時のコンセプトは「モダンとアンティーク」。
「二つの対局のものを、お菓子に反映させたい。
トラディショナルなものがベースにあり、それに対してモダンさを踏み込んで表現ができないかということで始めました。
今は、そこからもう少し自由にというか、変にカチッとコンセプトを決めるのって、目標に合わせてやっていくということになり、幅を狭めてしまうことがありますよね。
続けていくなかで、自分の中で生まれてくるものがコンセプトだと思いますよ。」

一番人気の「苺のモンブラン」や、塩キャラメルとチョコレートを使用した「キャラメルショコラサレ」など、オリジナリティ溢れるラインナップ。

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食べてきた物の記憶の蓄積からオリジナリティは生まれる。違うシェフの記憶を入れたくない。

商品開発を行ううえで、どのような活動をされているのだろうか。

「人のお菓子はなるべく食べないんです。
生まれてからこれまで、何万という物を何十年かけて食べてきて、蓄積されて味の記憶になっている。
自分が作るものって、自分が美味しいと思うものだから、自分が今まで培ってきたものから出来るわけだよね。
違うシェフのお菓子を食べるとそれが記憶に入る。
その人の人生観、その人のお菓子を取り込むということは、自分の中に変化球が入ってくることになる。だから、なるべく食べないようにしている。
味ってそういうものだと思っているからね。
他のシェフの味は入れたくないかな。
若い頃は食べたけど、自分で自分のお菓子を作るという上ではね。
生意気で、すみません。」

また、お菓子以外のところにアンテナを張ることによって、もっと広がりが生まれるという。

「中華料理やお寿司とかの方が影響はありますね。
ヌーベルキュイジーヌ(フランス料理において幾度か起きた新しい料理方法やスタイルの変革)がかつて、日本料理から影響を受けたと言われているように、違うジャンルから影響を受けることというのは非常に多いと思います。」

作ったものを喜んでもらえるのが一番嬉しい。

「この仕事をやっていて、一番喜びを感じるのは、作ったお菓子について『ありがとうございます。すごく美味しかったです。』と言ってもらえるということに尽きますよね。
お金を出して買って頂いたにも関わらず、御礼を言ってもらえるというのが本当にね。
こちらこそありがとうございますと思います。
あまり言葉で表現することは苦手でボキャブラリーがないものですから。僕の思いは商品を通して表現していますので、食べてみてもらえると嬉しいです。」

店舗概要
店名:ル ガリュウM (LE GARUE M)
住所:東京都大田区山王1-32-6
JR京浜東北線・大森駅徒歩10分。
大森駅から617m
営業時間:10:00~20:00
定休日:水曜日
※店鋪情報は掲載時点のものです。

※すべての商標は、各々の所有者の商標または登録商標です。

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